第五回「Let's search for a pretty girl of mystery」
俺たちは今、S公園のど真ん中に立っている。
何故かというと、大和が「それじゃあ、謎の美少女探しするから、土曜日にS公園に集合ね!」と人の貴重な休みに、勝手に予定を組み込んだからだ。
土曜日の午前九時。普段ならば夢心地のマイドリームなはずなのに、大和のせいで・・・・・・と、俺は心の中でブツブツと文句を言っていた。
まあ実際に言ったら殴られるのがオチだからな。
「よ〜し全員揃ったわね! それじゃあ捜すわよ〜!」
全員も何も俺と大和とリクだけじゃないか。
いつから俺たちは世界を大いに――中略――の団みたいなノリになってるんだ?
この大和の破天荒な性格に、よく今まで俺らは耐えてきたものだ。
「それで? 捜すというのは、何処をどう捜すんだ? この近辺だけでもかなりの広さはある。その中から人を一人、三人だけで捜すのは至難之業だぞ」
さすがリク。ちゃんと集合時間に集合した割には、正論を述べていた。
そう思うなら来なきゃよかったのに。
何か名案が、あるわけないな、大和だし。
「じゃ〜三人で別行動! 人海戦術よ!」
大和は拳を高々と突き上げて宣言した。
三人じゃ、人海戦術どころか仲間の列からはぐれたアリにしかならないと思うのだが、本人は全く気にしている様子もない。
大和よ、本気でその戦術を用いて見つかると思ってるのか?
「ん? な〜にボサッと突っ立ってんのよ。作戦はもう始まってるのよ? さ〜行った行った!」
そんなわけで、俺らは集合まもなく解散の運びとなったが、大和とリクはその子の顔を知ってるのか?
いや知ってるわけがない。
俺も後ろ姿を見ただけなんだから。
・・・・・・ほんとに見つかるのか?
もちろん、見つかるわけがない。
結局、一日中捜し回って何の収穫もなかったわけだが、大和は納得がいかないらしく、また捜索をすると言っていた。
当の本人がいいと言っているのに、大和の負けず嫌いぶりには呆れるばかりだ。
その負けず嫌いは、ブツブツと文句を言いながら足早に家路についた。
S公園には、俺とリクの二人が残された。
「今日は収穫なしだったな。まあ、いずれ見つかるだろう」
リクは疲れを全く見せずに言った。
「別に見つからなくたっていいよ。そこまで執着してない」
そもそも今日のことだって、大和が勝手に言い出したことであって、俺の希望ではない。
あの子のことを二人に話したことを、後悔しつつあった。
ところがリクはそうではなかったらしい。
急に真剣な顔をして話し始めた。
「それでももう一度逢いたいんじゃないのか? お前のその子に対する気持ちはその程度か? その程度の気持ちしかないのに、今までそんなに悩んでいたのか?」
リクの言葉の一つ一つが胸に響く。
確かにもう逢わなくてもいいと言えば嘘になるかもしれない。
でもわざわざ捜してまで逢わなくても、縁があればまた逢えるんじゃないか。
そう思っているのも本心だ。
「まあ、無理に捜せとは言わないさ。だが自分の心に嘘を吐いてまで、捜すのを止めることだけはするなよ」
そう言ってリクは家に帰っていった。
「自分の心・・・・・・か」
リクの言葉を心の中で繰り返しながら、俺も家路についた。
翌日は大和からの電話はなかった。
流石に休みの貴重な時間を二日も使って、いるかどうかも分からない人捜しをする気にはならなかったのだろう。
何より俺も助かる。
一日くらいはゆっくり一週間の疲れを取りたいからな。
月曜日、大和はあの子についてツッコんでくることはなかった。
どうやら飽きたらしい。
「ねえねえ、そろそろ球技大会よね? リクとクウは何やる?」
今の大和の関心は専ら来週行われる球技大会のことだ。
熱しやすく冷めやすい性格も、昔からちっとも変わってない。
まあこの学校の「球技」大会は変わっているから無理もないのだが。
「俺はビリヤードをやるつもりだ。クウは今年も大和とボウリングだろ?」
そう、「球技」が普通と少し、いやだいぶズレてる。
「球技」大会の種目は、ビリヤード、ボウリング、ゴルフ、ラクロスの四種目。
どれも普通の球技大会では行われないであろう種目だ。
俺は思う。何故、バスケとかバレーとかサッカーとか、もう少しまともな種目を取り入れないのかと。
俺は去年も一昨年も大和に無理やりボウリングでペアを組まされている。
今年もそうなるだろうよ。
「そのためのゴールデンウィークのボウリングでしょ? その時にクウの方がスコア良かったから、今年もクウと組むのよ! いいわよね?」
なんと、あの時からすでに球技大会のことを考えてたのか。
大和の負けず嫌いも日に日に力を増しているんじゃなかろうか。
それから毎日のように、俺は大和にボウリングの練習をさせられ続けた。
おかげで腕がパンパンだ。
大会二日前から休暇が与えられたが、腕の張りは取れることなく当日を迎えた。