第四回 「Two weeks later.」

 

 題名の通り、話はあれから二週間後。

 俺は気が付けばいつもあの子のことを考えていた。

 何故あんな一瞬、ただ後ろ姿を見ただけの子を、こんなにも思い出すんだろう。

「はぁ〜」

 そんな俺を見て、落ち込んでいると思ったのか、リクがやって来た。

「なんだよクウ。ここ最近いやに元気ないじゃないか。便秘か?」

「何でだよ。そんなちっぽけな悩みじゃねぇよ」

「そんなことはないぞ。いいかクウ。便秘と言うのはな・・・・・・。

 そう言うと、リクは便秘の何たるかを延々と語り始めた。

 何でそんなに便秘にこだわってるんだ? コイツは。

 意味分かんねぇ・・・・・・。

 このまま聞いていても、俺は便秘に関しての情報を覚えるつもりは一切無いので、得意げに話しているリクを置き去りにして、トイレに向かうことにした。

 ちなみに、トイレに向かうのは、便秘とは何の関係もないので誤解しないように。

「全くリクは、何だってんだよ一体」

「あんたに気ぃ使ってんのよ。あれでも結構気遣いなんだから、アイツは」

 用を足しているところに大和が現れた。

 って大和?

「何、男子トイレに入ってきてんだよ。人呼ぶぞ? この覗き魔!」

「何、女みたいなこと言ってんのよ。ちっさい男ね〜、色々と」

 大和の視線は、間違いなく俺のアソコに向いていた。

「ちょっ、何見てんのよ〜!」

「青○か、あんたは。まぁいいわ。どうせあの子のこと考えてるんでしょ?」

 流石は大和。伊達や酔狂で一緒にいるわけじゃない。

 この際、しっかり二人に相談した方がいいだろう。

 俺は社会の窓を閉め、トイレを後にした。

 

「そんなことで悩んでたのか。いやー気付かなかったなー」

 リクがものすごいわざとらしく驚いた。

 こういう時のリクの演技はものすごい下手だ。

 もっともリクの場合、それもわざとかもしれないが。

「それで? クウはどうしたいの?」

 どうしたい?

 大和のストレートな質問に、俺は戸惑いを感じた。

 そう聞かれてすぐに答えられるほど、俺の心は定まっていないのかもしれない。

 ただもう一度会いたい。

 少し経って、そんな気持ちが俺の中に芽生えた。

 よくよく振り返ってみると、その子に会ってすらいない。

 ただ見かけただけ。

 だから、知り合いになりたい。

 そう思ったのだ。

「あっそ〜。そんなことでいいの? あんた、夢がないな〜。彼女にしたい! とか、自分の支配下に置きたい! とかそういう気持ちないわけ?」

 なにやらしかめっ面で首を左右に振りながら呆れている大和。

「全くだ。お前はもっと度胸があって、頼りがいのある熱血漢だと思っていた」

 同じくリクもしかめっ面で、こちらと目を合わせようとしない。

 何? 俺、いつの間にかヘタレキャラ?

 二人の目が、そのことを物語っていた。

「そ、そんなこと言われたってさ〜。俺、あの子のこと何にも知らないんだぜ?」

「ならば捜すがいい。己が真に彼女を欲しているならば、きっと出逢えるはずだ」

 そう言い放ったリクの顔は、何故か誇らしげだった。

 何キャラだ? リクよ。

「てか、別に欲してねえし」

「そんなんじゃダメだって言ってんでしょ! 男ならドーンと告って押し倒せ!」

 大和は胸を張って言い切った。

 いやそれはやっちゃダメだろう、人として。

「だから俺は別にそういう気持ちであの子を見てるんじゃねえって言ってんだろ!」

「どう考えたってそう見てるとしか思えないじゃない!」

「そうだな。クウは自分で気付いてないだけだな。ま、初めてはそんなもんだろ」

 とうとう言い争いになってしまった。

 三人とも、声が次第と大きくなる。

 それでもリクはいつも通りのトーンなのだが。

「おい、天野、柏木、浅井」

 そんな中、後ろから俺らを呼ぶ声が聞こえてきた。

 なんだってんだよ。今、取り込み中だってことぐらい見て判れよ。

「違うっつの! あ〜! お前らに相談するんじゃなかった!」

「何言ってんの!? あたしたちに相談して大正解よ! 他に相応しい人がいる?」

 いつの間にか、俺たちは席を立ちあがっていた。

「おい、クウ、大和。そろそろ止めといた方がいいぞ?」

 さすがにマズいと思ったのか、リクが仲裁に入ってきた。

 だが、ここまでヒートアップした二人を、止められるわけがない。

「「五月蝿い!」」

「五月蝿いのはお前らだ。天野、浅井」

「「へっ?」」

 その、リクとは明らかに声の太さもトーンも違う声に殺気を感じた俺たちは、口論を止めて声の主の方に視線を向ける。

「あ・・・・・・」

「二宮先生・・・・・・」

「今は授業中なんだが、楽しそうだな? 三人とも。別のことで」

「くっ、俺も含まれた・・・・・・」

 クラスの視線は、当然のごとく俺らに向けられていた。

 放課後、俺らが先生にこっ酷く叱られたのは、言うまでもない。

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