第六回 「謎の彼女を無視して、球技大会始まっちゃったよの第六回」

 

「で、どうすんだよ、あれ」

 のっけから俺らはピンチに陥っていた。

 約六十フィート先に突っ立てる二本のピンは、まるで倦怠期の夫婦みたいに、見事に両端を陣取っていた。

 現在の相手のスコアは116。対し、俺らのスコアは114。

 フレームは十フレーム。

 つまりこの倦怠期カップルを両方打破しなければ、俺たちに勝ち目はない。

 ・・・・・・まあ、なんというかあれだな。

 大和、役に立てずにスマンな。

 

 事の始まりはほんの二十分前からだ。

 初戦の相手は、説明するのもめんどくさいし、これ以上余計な登場人物を増やしたくもないので割愛させていただく。

 ○ギまや○クラン、○らごん○いふみたいな大所帯にするつもりは毛頭無いからな。

 そんなこんなで始まった、球技大会のボウリング種目。

 軽快にストライクを出す大和に対し、俺は倒せても七本程度。

 おかげで大和に何回怒鳴られたことか、数えちゃいないけど。

 片や相手方は、要所要所でスペアを取り、手堅くスコアを取ってくるあたり、なかなかの手練れと御見受け致す。

 そんな半ば一対二で対決していた大和は相当大変だっただろうな。

 何せ俺は七本までしか倒さないし、下手すりゃガターだって出してる。

 その後出した大和のストライクは、俺のガターのせいでスペアになる。

 その次に投げるのが俺なんだからスコアはあまり伸びない。

 疲れもイライラも溜まってたんだろうな。

 最終フレーム――つまりは十フレームだな――に大和の投じた球はカラーンと実に清々しい音を奏でて、ボケーっと突っ立ってるピンをなぎ倒した。

 ただ二本の倦怠期夫婦を残して。

 

「で、現在に至るわけだけど」

「誰に説明してんのよ。いいからちゃっちゃと倒してきてよね、二本とも」

「あ? いきなりピンチじゃ、そこまでの経緯はどうなっとんじゃい、って後で苦情が来るだろ? だから今説明を、っておいっ! あの二本は倒せねえよ!」

 対戦相手はもう勝った気でいる。二人とものん気にアイスなんか食いやがって。

 そりゃそうさ、ピンの立ち位置は七と十、いわゆるスネークアイ、またの名をベッドポッドだ。

 しかもそれを倒さなきゃ勝てないってんだから無理な話さ。これを倒したきゃ、遠隔操作可能のラジコンボールを買うか、○ラえもんにでも泣きつくんだな。

 このどう考えたってチェックメイトな状況にも関わらず、それでも大和は俺をどこかの正義超人か何かと勘違いしているのか、倒せ倒せとやたら五月蝿い。

 この原因を作ったのはお前だぞ? 分かってんのか?

「あのな大和。よく考えてみろ? スネークアイってのはプロでも無理だって言われてるんだ。それを今まで特にいいところのない、ああ・・・・・・自分で言ってて情けなくなってきた・・・・・・。俺が倒せるわけないだろ? あの夫婦はもう終わりだ。共に死ぬことはない。離婚だ離婚、熟年離婚。きっと長年一緒にいて結婚生活に嫌気がさしたんだって。うんそうだ、そうに違いない」

「何をダラダラとくっちゃべってんのよ。あんた主人公でしょ? 何かこう、なんとかバスター! とか、なんとか波―! とかゴムゴムのー! とかできないわけ?」

「できねえよ! ジャ○プの化け物じみた主人公と一緒にすんじゃねえ! 俺は一般市民だ! 大体それができたところであの夫婦の縒りを戻せるのか!?」

 そんな言い合いを五分? いや十分はしてたかな?

 さすがにね、相手側も待ちきれなかったようでね、まあ当然と言えば当然、むしろよく十分も待ってくれたよ、いや全く。

 仕方ないのでさっさと投げてしまいましょう。

 何処に転がっても状況は好転しない。

 俺は適当に思いっきり投げた。

 球は一直線に十ピンの方向へ進み、そして!

 

 暮れなずむ町の光と影の中、俺たち三人はいつものように下校していた。

 球技大会ってのは時間が掛かるものだなと思いながら、明日からまた普通に授業が始まると思うと途端に憂鬱になる。

 五月病って、こんな感じかな〜、もう六月も近いけど。

「しっかしクウはほんとにダメダメねっ! 普通あそこで外す? 普通どっちかは取るでしょうよ!」

 まただよ・・・・・・。もう何回目だよ・・・・・・。

 大和はいつまでもボウリング最後の俺の一投にいちゃもんをつけてくる。

 ボウリングが終わったのは十二時。今が十八時だから一日の四分の一は、大和の愚痴を聞いてることになる。

「どうせ勝てないんだからどうだっていいだろ?」

「良くないっ! あ〜あっ! 三年間、一度も勝てずに球技大会終わっちゃった!」

「そんなんだったら俺と組まずに他の奴と組めばいいだろ?」

「そうはいかないわ! 強い人と組んだら勝てるのは当然でしょ? 弱い人と組んで勝つから面白いんじゃないのよ!」

 大和が勝った時の喜びを体いっぱいで説明してる横で、リクがなにやらニヤニヤと笑っていた。

「ちょっと何よリク、何笑ってんのよ?」

「いや、別に。大和も素直じゃないなと思ってね。それじゃあ俺はここで。また明日」

 そう言うとリクは、いつもよりも早い場所で俺たちと別れた。

 気が付くと、既に日はとっぷりと沈んでいた。

 いくら大和とはいえ、夜道を一人で歩くのは危険なので、大和を家まで送ってから帰った。

 筋肉痛でしばらく腕が使い物にならないな。

back index Novel top next