準備開始から数日。 俺たちは学校行事の一環で、芸術鑑賞会の会場である、芸術劇場にやって来た。 毎年、音楽・古典・演劇の分野をローテーションで回し、生徒たちの芸術に対する関心を高めるのが目的だ。 今年は音楽。演目の書かれたパンフレットには、聞いたことがあるような音楽団の名前が記述されていたので、どうやらそれなりに有名な団体らしい。 最後にはスペシャルアンサンブルも用意されているようで、俺たちを大いに楽しませてくれるに違いない。 この前演奏会をやった手前、今回は聴く側に徹することができるので、胸躍らせながら、音楽団を待った。 様々な曲が奏でられ、生徒の半数以上が舟を漕いでいる間、俺は演奏に夢中になっていた。 指揮棒の動き、それに反応して変化する波長、皆で作り出された一体感。 そのずべてが、俺の心を捕らえて、離さない。とその時、通路から腰を低くした明日香先輩がやって来た。 「エリちゃん、早く準備してね」 「え?」 突然の出来事に「?」マークを出しまくっていると、トリは私たちなのよ。だから早く準備〜、と言ってパタパタと舞台袖の扉に消えていった。 その後もしばらく放心状態から開放されることはなかった。 ようやく状況を把握し始めて最初に思ったことが、ヴァイオリンを持ってきてない、ということだった。 「? どしたのエリちゃん。早く行こうよ」 「ああ、香澄ちゃん。実はね・・・・・・」 たまたまそばを通った彼女に事情を説明するとクスリと笑って、この不可解な状況を説明してくれた。 「このサプライズはね、ハプニングでもなんでもなくてデスティニーなんだよ!」 「? ? ?」 疑問符が増えた。 簡略にまとめると、今回のこれは部員の人はみんな知っているようで、俺が生徒会に出席していたときに決まったことだそうだ。 なぜ俺にだけ連絡が回っていないかというと、それは明日香先輩の単なる意地悪とのこと。 どうやら、俺が部活に出席しないことを相当怒っていたらしい。 いやな予感が的中したな。 『それではいよいよ最後に用意されました――』 そうこうしている内に、フィナーレを告げるアナウンスが流れてきた。 「あっ、いっけない。ほらエリちゃん早く〜」 一向に動く気配のみせない俺に痺れを切らし、香澄ちゃんは腕を強引に引っ張って、とうとう舞台袖まで強制連行されてしまった。 ああ、平穏な芸術鑑賞会は何処へ・・・・・・。 ←back index Novel top next→ 良かったら以下のサイトに投票願います♪ |