「何だ、もう行っちまうのか?」 ケイが名残惜しそうに言ってきた。 「あぁ、もうすぐ十七時だし、ここから熱海まで二時間はかかるんだよ」 「それなら仕方ないな。ほらケイ諦めろって。何時までリナの服掴んでるつもりだ?」 ケイは渋々俺の服を放した後にため息を吐きながら言った。 「はぁ、しゃ〜ねぇな。リナ、また遊びに来いよ? みんな、お前がいきなり転校して寂しがってたぜ? 特にファンクラブの会員とかがな」 「えっ!? 絵里菜先輩、ファンクラブなんてあるんですか?」 「わっ、ビックリした〜」 美香ちゃんが突然大声を出してきたので、俺は心臓が飛び出すかと思った。 「そうよ。カズとケイとリナは、うちの高校で宝林三本柱(トリニティー)って呼ばれる程の人気者なんだから。本人たちは、あんまり自覚ないみたいだけどね〜」 真実がニヤニヤしながら美香ちゃんに説明してた。 「絵里菜先輩、凄いじゃないですか〜! 帰ったらみんなにも話そ〜っと」 「いやっ! それはやめてくれ!」 そんなこと言われたら何されるか分かったもんじゃない。 特に明日香先輩とか、明日香先輩とか、香澄ちゃんとか、明日香先輩とか・・・・・・。 「そうですか? じゃあ言いません! 二人だけのヒミツですね♪」 何か俺、からかわれてる? 「そうやってラブラブやってんのはいいけどさ〜、電車行っちゃうよ?」 「へ? あっ、やばっ! じ、じゃあ俺らもう行くわ。んじゃ、またな!」 「おう! また逢おうぜ!」 ケイが、今にも泣きそうな顔してる。 「たまにはこっちにも顔出してくれよ?」 カズも名残惜しそうな顔してんな。 「それから、携帯くらい買えば? そうすれば、いつでも連絡取れるじゃん」 と真実に言われたが、こっちにはそんな金はない。 けど、やっぱ欲しいな、携帯。 駄目元で大家さんに頼んでみようかな。 「絵里菜くんの元気そうな顔見れて良かった。また逢えるよね?」 可憐が不安そうな顔をしながら訊いてきた。 「あぁ、勿論さ」 「篠原さん、リナのこと、宜しく頼むよ」 「はい! 分かりました!」 「あ〜もう! 時間ねぇっつってんだろ! じゃあな!」 俺は、振り返らずに走った。未練の残らないように・・・・・・。 「いい人たちでしたね。リナ先輩♪」 「そうだな、今日は明日香先輩に感謝だな。・・・・・・え? 今、リナ先輩って言った? 出来れば元に戻してもらえると・・・・・・」 「いいじゃないですか。リナ先輩♪」 結局、呼び方を戻してもらえず、そのまま熱海へと帰館するのであった。 三度(みたび)確認しておくが、俺が転校してからまだ一ヶ月しか経っていない。 ←back index Novel top next→ |