「エリちゃん、香澄荘の向かい側に平屋が一軒建ってるの、知ってる?」
「え、あっはい、知ってますけど」
 いきなり明日香先輩が話し掛けるもんだから俺はビックリしてしまった。
 っていうか俺の愛称『エリちゃん』スか?
「うん、だって可愛いじゃない?」
 あ〜この人も俺の心の中に土足で入ってくる〜。
「ちゃんと靴脱いでるから大丈夫、それよりあの平屋ね、吹奏楽部の第二部室なの」
「あれ、部室なんですか!?」
「そうよ、去年全国制覇したら、校長が建ててくれたの」
 創立五年で全国制覇・・・・・・それで建ててくれる校長もすげ〜。
「ちなみに五連覇」
 五連覇!? 創立一年目からずっとトップ!?
「そうで〜す。で、基本的に部活は第二部室、通称『音楽荘』でやるから」
 そうなのか。確かここじゃちょっと狭そうだな。
「と言う訳で、みんなにも言ったから今日は解散! また明日、音楽荘で」
 この日は顔合わせをしただけで解散となった。
 学校にこれ以上用は無いので、早々に帰宅するとしようと思ったその時、
「ねぇ、一緒に帰ろ♪」
「ぅわっビックリした〜、香澄ちゃんか」
「ねっ帰ろ♪」
 特に断る理由もないし、俺は香澄ちゃんと一緒に帰る事にした。
 その帰り道。
「香澄荘ってね、今絵里菜くんしか住んでないんだよ」
 俺の顔を覗き込むように話している香澄ちゃんはなんとも可愛らしい。
「ねぇ、今日遊びに行ってもいい?」
 えっ今日? そんないきなり?
「ダメって言っても行くからね♪」
「いや今日は、自転車を買いに行こうかと・・・・・・」
「じゃあ良い自転車屋さん教えてあげる♪」
 そう言うと同時に香澄ちゃんは俺の手を握り・・・・・・というか掴み走り出した。
 ・・・・・・二十分後。
「はぁっ、はぁっ、さっ、流石に疲れた・・・・・・」
「ここだよ♪」
 連れて来られたのは小さな自転車屋だった。
「いらっしゃい、あれ? 絵里菜くんと香澄ちゃんじゃないか」
 奥から出てきたのは海斗先輩だった。
「ここ、海斗先輩の家だったんですか?」
「そうだよ。ここにきたって事は自転車が欲しいんだろ? 安くしとくよ」
 店は品揃えが良く色々な自転車が有って迷ったが、結局俺は、海斗先輩が薦めてくれた自転車を買って、その後ろに香澄ちゃんを乗せて香澄荘へと帰った。


back index Novel top next