CASEU――とある都内の私立高校の話――
暦の上では春、しかも例年以上の暖冬だというのに、この日は違った。
気温は十度に満たない。かといって晴れているわけでもない、どんよりとした曇り空。
そんな中、一部の男子は、この日のために机とロッカーをせっせと片付け、臨戦態勢に入っていた。
「大和〜、今日何の日か知ってる〜?」
ここにも、淡い期待を友に向けている男子学生が一人――
「はあ? あんた何言ってんの? 頭おかしくした?」
――大和と呼んだ女子学生に軽くあしらわれていた。
「今日はアル・カポネと抗争を繰り広げていたバッグズ・モラン一家のヒットマン六人及び通行人一人の計七人が殺害された日だ」
そこに現れたのは、大和にしてみれば頭をおかしくしたことになっている男の親友――柏木陸也である。
因みに、頭を(中略)のは、天野空馬と言う、ちゃんとした名前がある。
決して頭をおかしくしたわけではない、と彼の名誉のために言っておこう。
「違えよ。いやもしかしたら違わないのかも知れないけどさ。そんな難しいことが聞きたいんじゃないんだよ、俺は。単純明快な千葉ロッテマリーンズの監督の名前で表せるような答えが欲しいわけ!」
空馬は、いやに熱弁している。
が、その問いを投げかけられた二人はというと、
「スティーブン・スピルバーグ?」
「クリント・イーストウッドか?」
その問いを真面目に答える気は毛頭無かった。
「どっちも映画監督じゃねえか! 違げ〜よ。あれだよ! カタカナ六文字!」
彼らの気持ちを知ってか知らずか、いや、知らないのだろうな。空馬はヒントを出し続ける。
そんなに重要なことならば、クイズ形式になどせずに言ってしまえばいいものの。
「ペヨンジュン?」
「いや、カンタービレかも知れない」
相も変わらず二人のふざけぶりが変わることは無い。
「誰が韓流スターだ! 何をなだらかに演奏するんだ! お前ら、まともに答える気あんのか!?」
「「ない」」
即答だった。
二人の顔に、迷いは一切みられなかった。
その姿を見て、空馬はとうとう諦めたのか、ガックリとうなだれた。
そろそろ空馬をからかうのも飽きてきた二人は、空馬を慰める方向へと移行した。
「冗談よ。それくらい、乙女なら誰でも知ってるわ」
「お前、乙女だったの、ぐふぁっ!」
言い終わる前に、大和の裏拳が空馬の鼻っ面をクリーンヒットしていた。
鼻は正中線にあたる為、確か人間の急所だったように記憶しているが、空馬は大丈夫なのだろうか?
「失礼ね。私だって一応レディなんだからね。って誰が一応なのよ!」
大和は、自分で言って自分で怒って、空馬を蹴飛ばしていた。
「ってえな! 何も言ってねえっつの!」
裏拳は空馬が悪いとして、その後の蹴りは完全にとばっちりである。
「ったく、バレンタインでしょ? 世の女性たちは、丹精込めた手作りチョコを意中の相手に渡すんでしょうよ」
「んっ」
そう言うと、空馬は両手を大和の方に差し出した。
「・・・・・・何よ」
「だからチョコ頂戴?」
先ほどまで、乙女とも思っていなかった相手に対してチョコをくれとねだる空馬。
「残念でした。私はあげる分のチョコは、生憎持ち合わせておりませ〜ん。貰ったのなら結構あるけどね」
「何だよそれ! あれか? 所謂友チョコって奴か? おい、リク! お前もなんか言ってやれ!」
負け惜しみにしか聞こえない空馬の叫びの矛先は、いつの間にか親友の陸也に向けられていた。
しかし、これが空馬にとどめをさす結果になった。
「確かに大和が作ったチョコを頂きたい気持ちはあるのだが、生憎俺は既にカバンの中はチョコでいっぱいでね。悪いなクウ」
親友がモテるということをすっかり忘れていたのか、それとも自分もモテていると自惚れていたのか、どちらにせよ、これが空馬への精神的ダメージの決定打となった。
段々と空馬が可哀想に思えてきたのだろうか。大和が「分かった分かった。じゃあ帰りにチョコ買ってあげるから、ね? 放課後まで我慢してよ」と女神の救済とも言える一言がなければ、空馬は今日一日ずっとブルーのままだったかもしれない。
因みにチョコの数で、大和と陸也が互角に張り合っていたことは、誰も知らない。
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