大きな布を抱えながら生徒会室に戻ると、歩美先輩が会長席に座りながら、悠然と豆大福を口いっぱいに頬張っていた。

「わ、へひはふん、ほふぁえひ〜」

「何言ってるのか分からないですよ。口の中整理してから喋って下さいっ!」

 いつも凛々しい出で立ちをしている生徒会長様が、両手に豆大福を持ちながら大福の粉だらけになっている姿を、一体誰が想像しただろうか。

 生徒会室ではこんな姿をしていると知ったら、生徒たちはどう思うのだろう。

「おう、お疲れさん。おい歩美、そのボロボロこぼしとる白い粉どうにかせえ。資料が粉まみれになったらどないすんねん」

 歩美先輩は、ふぁ〜い、と返事をして豆大福を口に含んだまま片付け始めた。

 俺も片付けを手伝いながら、捨ててあるごみをちらっと見てみると、先ほど食べてた豆大福の袋の他に、みたらし団子のパックやら信玄餅の入れ物やらがちらほら。

 どんだけ食べてたんだ、この人は。

「よしっ、片付け終わりっ! ところで源ちゃん、今みんな何やってるの?」

「何を言うとんねん。体育祭は宗たちが得点版作っとるし、文化祭は由貴たちが横断幕作っとる。頼むから今やっとる作業くらい把握しといてくれ」

 村中先輩は呆れながら答え、自分の作業を続けた。

 その時、コンコン、と生徒会室の扉をノックする音が聞こえた。――刹那、

「はい、どうぞ」

 今までだらだらとしていた歩美先輩の顔つきが、姿勢が、口調が、変わった。

 その姿は、私立蒼葉高等学校生徒の頂点に君臨する、皆が一様に憧れる完全無欠の壮麗たる生徒会長、北条歩美、その人であった。

「し、失礼しますっ!」

 ノックの主は小柄な女生徒だった。

 オドオドしていその様子から、生徒会室という異質な空間に入り、緊張していることがうかがえる。

「何か御用かしら? 木原亜実さん?」

 その緊張を解くかのように、歩美先輩はゆったりとした口調で話しかける。

「は、はいっ! あ、あれ? 私の名前……」

「一年六組文化祭会計の木原亜実さん、よね? あら? 違ったかしら?」

 凛々しい姿はそのままに、少し微笑んで問いかける歩美先輩。

「い、いえっ! そうですっ! でも、何で……」

 彼女は歩美先輩が自分を知っていたことに驚き、不思議そうに首をかしげた。

「この前、文化祭会計の打ち合わせがあったでしょ? その時に、ね」

 そういって緊張している彼女にウインクを返した。

 どうやら彼女は文化祭の予算について話があったらしく、会計の綾瀬くんが対応して、彼女は退室していった。

 たった一度面識があっただけで、フルネームで覚えてしまう記憶力や訪問者に対するすばやい対応。

 凄い。歩美先輩、カッコいいな〜。

「あ〜仕事したら甘いもの食べたくなってきちゃった〜。誰か買ってきて〜」

 台無しだ〜〜〜〜〜〜〜!

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