約三時間の散歩も終わり、俺たちは旅館へと戻ってきた。

その後、昼食を取って、出発する時間になった。

「女将さん、三日間、御世話になりました」

吹奏楽部を代表して、明日香先輩が挨拶をする。

「いえいえ、また来年の合宿所もここを使ってね、明日香ちゃん」

「やだな〜、女将さん。来年は私は卒業してるよ〜」

「あら、そうだったわね。でも、またいらっしゃい」

女将さんと明日香先輩は、なにやら楽しそうに話している。

「それじゃあ、行くね」

「またのお越しを心からお待ちしております」

こうして、三日間御世話になった旅館を後にした。

――バス内――

「「「いえ〜い!」」」

・・・・・・五月蝿い。

明日香先輩、もとい町田姉妹と辰哉がここぞとばかりに騒いでいる。

あなた達は疲れというものを知らないんですか?

はぁ・・・・・・、まぁいいや。寝よ・・・・・・。

「楽しかったね〜、合宿」

話し掛けてきたのは香澄ちゃんだ。

「・・・・・・そうだね」

俺は早く寝たいのだが、ここで無視して寝たりしたら、相当心が冷たい奴だ。

俺は眠たい気持ちを抑えて香澄ちゃんの話に耳を傾ける。

「あのね、私ね、東京タワーって初めてだったから、一番上まで上ったの! そしたら、硝子の床があってね、すっごく怖かったの! それでね・・・・・・」

香澄ちゃんの目がとてもキラキラ輝いていた。

確か、俺が初めて上ったのは、五歳の時だったな。

真実と一樹と俺で、誰が最初に硝子の床に乗るかでもめたっけ。

「絵里菜先輩、私たちは新幹線に乗ったんです」

「新幹線って速いですね! あっという間に着きました。それからですね・・・・・・」

今度は結城姉妹だ。

そっか、結城姉妹は新幹線を使ったんだったな。

俺らも使えばよかった。

「絵里菜くん、私と竜馬くんはヒッチハイクで行ったんだよ〜。その運転手の小父さんがとっても優しくって・・・・・・」

今度はマイかよ。いい加減寝たいんだけど・・・・・・。

しかし、どうにも断れなくて結局話を聞いてしまう俺。

「着いたわよ〜。みんな降りて〜」

え? もう着いたの?

「明日から学校だけど、みんな頑張っていきましょう!」

「「「「「「「オ〜!」」」」」」」

結局、この吹奏楽部交流合宿、俺は一睡もしなかった、もとい出来なかった。

帰って早く寝よ。

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