夏――それは青春の第二シーズン。
 春に結んだ想いを紡ぐひと夏のアバンチュール。
 そんなものは欠片もなく俺たちの夏休みは始まった。

「ねーエリちゃん、宿題終わった?」
 唐突に部屋を訪ねてきたのは、絵里菜の住んでいる香澄荘の大家さんの娘である蒼葉香澄ちゃんだ。
 ちなみにわざわざ説明したのは、作者が確認するためでは、決してない。
「終わってないよ。っていうか、それ夏休み初日にする質問じゃないよ!」
 その返答を聞いた香澄ちゃんは、ハトが豆鉄砲喰らったような顔をして玄関先で固まっている。そこまで驚かなくても。
「むしろ終わってる人の方が驚きだよ。今日からだよ? 夏休み」
「あら、わたしはもう終わったわ。ところで――」
 摂氏三十五度というクソ暑い猛暑日に、その人は涼しげな顔で立って――
「あーーつーーいーー。エリちゃんアイスーーーー!」
 ――なかった!!
 明日香先輩は大声でアイスを求めながら玄関に倒れこんだ。
「ちょっ、先輩!?」
「うわーーーっ! 明日香先輩がばたんきゅーーーー!!」
 俺と香澄ちゃんは急いで先輩を家の中に運び込んだ。

「はー、満足満足♪」
 暑い夏対策に買い込んでおいた○リガリくんを平らげた明日香先輩は、満足げにおなかをポンポンと叩いた。
「元気になったところで、なんで俺の家に来たか、教えてもらえません?」
 今日の部活は休みのはずだ。
 なのにどうしてウチに来たんだろう?
「エリちゃんに会いたかったから♪」
 あ〜そうきたか。うん、なんとなく想定はしてたけど。
「で、エリちゃんにも会えたし、アイスもおいしかったから帰るね♪」
「あ〜、はい、お気をつけて・・・・・・」
 なんだかドッと疲れたので、特にツッコまずにおとなしく帰ってもらおう。
「う・・・・・・」
 ところが、家に帰ろうと玄関に向かった明日香先輩が急に足を止めた。
「どうしました?」
 振り返った明日香先輩が、ぼそぼそと一言。
「エリちゃん・・・・・・おなかいたい・・・・・・」
「・・・・・・え?」

 こうして俺は、夏休み初日を明日香先輩の介抱に費やすことになった。

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