アリス先輩とマイを成田に残したまま、俺たちはウィーンへと到着した。 ベートーヴェン、モーツァルト、シューベルト、ハイドンなど、数々の音楽家が大活躍した音楽の都――ウィーン。 「ここがシェーンブルン宮殿ね。私もこんなところに住みたいわ〜♪」 明日香先輩は、とても楽しそうにウィーン観光をしている。 正直の所、俺はマイとアリス先輩のことが気がかりで観光どころじゃない。 読者の人は殆ど知らないと思うので説明すると、シェーンブルン宮殿とは、ハプスブルク王朝の歴代君主が使用した宮殿のことである。両翼はなんと百八十メートルもあり、外壁はマリア・テレジアの好みということで、黄色に染められている。マリア・テレジアとは――と延々と説明しているとキリがないので、この先を詳しく知りたければ、各自で調べていただきたい。 「ほんとだね〜。私も住みた〜い」 アリス先輩は相変わらずの、のほほんボイスでそう感想を述べた。 「ってアリス先輩! いつからここに!?」 「え〜? 最初からいたよ〜?」 嘘だ、絶対に嘘だ。何か時空の歪みを感じる。 だが、無事で何よりだ。もうこの際何も気にしないことにしよう。 その後一頻りウィーン観光を済ませたあと、宿泊先のホテルへと向かった。 部屋割りは、前(さき)の交流合宿のようなくじ引き、なんて掟破りな方法ではなく順当に男女別に分けられた。女子は学年別に三部屋、男子は三人一部屋だ。 「は〜疲れた〜」 体中の疲れが一気に襲い掛かってきたような疲労感を感じ、ベッドに倒れ込んだ。 ふかふかとしたベッドはとても寝心地が良かった。 あ〜このまま寝てしまいたい。そして全てが夢だったと思いたい。 「無理もないよ。時差ボケで疲れもあるだろうに、明日香に散々連れ回されてちゃね」 海斗先輩はそう言ってベッドの端に座り込んだ。 言葉の割に疲れているように見えないのは、明日香先輩の所業に慣れているからなんだろうか。 「・・・・・・やっぱり海斗先輩は凄いや」 俺はぼそりと呟いた。 その言葉を、海斗先輩は聞き逃さなかったらしい。 「そんなことはないよ。僕だって疲れてるさ。でも、明日香のアレは、今に始まったことじゃないからね」 「そうなんですか? ってそうでしょうね。熟練の技って感じがしますもん」 「はははっ。アレは未だに慣れないよ。いつも一人で勝手に決めて、突っ走って。それでトラブルに巻き込まれて、後始末をする僕らは大変なんだから。まぁ、それが明日香が明日香たる証でもあるんだけどね」 海斗先輩はそれから、明日香先輩の性格、行動、仕草など、明日香先輩の全てを知り尽くしているように語ってくれた。 自由奔放な明日香先輩と、冷静沈着な海斗先輩。 互いが互いを理解しているからこそ成り立っている関係なんだということを痛感した瞬間だった。 ←back index Novel top next→ |