「今日は七夕ね〜。なんかロマンティック♪」 明日香先輩はうっとりとした表情で、夜空を見上げている。 その顔は、まさに乙女の顔だった。 「明日香先輩、うっとりしているところ悪いんですけど、七夕っていうのは厳密に言うと七月七日の早朝に行うことを言う、痛っ! 叩かなくてもいいじゃないですか! ってどっから持ってきたんですか、その辞書」 いつの間にか明日香先輩の手には英和辞書と和英辞書があった。 明日香先輩はその角で頭を叩いてきたのだ。 「これが有名なディクショナリーアタック(辞書攻撃)ね。一説によると広辞苑が一番威力があるとか。そんなことよりエリちゃん! 野暮なこといいなさんな。今や日本人の殆どが、七夕は七日の夜だと思っているのよ? それに早朝じゃ、小さい子が参加できないじゃない!」 明日香先輩は幼稚園の先生みたいに怒り始めた。 まぁ、それはそうなんですけど、ってこれ以上反論しても最終的には、 『問答無用♪』 ってくるだろうからもう何も言わない。 「今日は生憎の曇り空で残念ですね〜。折角一年に一度しか会えないのに・・・・・・」 「そうね〜。なんか七夕って天気が悪い時が多いわよね〜。何でかしら?」 「天帝の呪いだったりして」 「もしかしたらそうかもね。あ、そうだ。エリちゃん、短冊に願い事書いた?」 そうか、そんな風習もあったな。まぁ、短冊を笹に飾る風習は日本だけみたいだけど。 「まだです」 「じゃあ一緒に書きましょうか? まだ笹も届かないし」 「え? 笹、誰かが持ってくるんですか?」 「ふふっ、ちょっと、ね♪」 そう言って明日香先輩はウインクをした。 ――それから一時間が経ちました―― 「エリちゃん書けた〜?」 「ええ、一応・・・・・・」 書けたには書けましたけど・・・・・・。 「見せるの、恥ずかしい?」 出た、久しぶりの上目遣い。――と、 「あ、明日香。も、もって来たぞ。これで、い、いいんだろ?」 そこに現れたのは、巨大な笹を持った海斗先輩だ。 その大きさは三メートルはあろうかというもの。 当人は物凄い汗をかいて、肩で息をしていてとても苦しそうだ。 海斗先輩、こんなもの一人で持ってきたんですか? 「う〜ん、もうちょっと太くて大きいのが良かったんだけど、まぁいいわ。ありがとう♪」 「全く、なんで僕一人なんだ。ほ、他にもいるだろう。小笠原とか、田中とか、森本とか・・・・・・」 うわ〜。どこかの野球チームみたいな名前が次々と出てきますね〜。 「まぁ彼らでも良かったんだけど、ほら、海斗ならやってくれそうじゃない?」 「確かに、他の奴らなら、やらないだろうさ。こんな仕事・・・・・・」 いや、俺は明日香先輩の頼みは断れないと思う。 「そうかな? まっいいや。で? エリちゃんは何て書いたの?」 「え? えっと。『吹奏楽部のみんなが、いつまでも幸せでありますように』って書きました・・・・・・」 そう言って、明日香先輩の方をふと見ると、下を向きながら、肩をブルブルと震わせていた。 「あ、あれ? 変でしたか?」 「ううん! エリちゃん偉い! そして可愛い♪」 そう言って突然飛び掛ってきた。 「うわっ! や、止めてくださいよ明日香先輩〜」 「や〜だ♪」 う〜わ。やだって・・・・・・。あ、そうだ。 「そ、そういえば明日香先輩はなんてなんて書いたんですか?」 「ひ・み・つ♪」 あ、またそれですか・・・・・・。 相変わらず明日香先輩は抱きついたまま離さない。 「明日香、そろそろ離してやれよ。絵里菜くん、本気で困ってるぞ」 ナイスです、海斗先輩! 「む〜、しょうがない」 ようやく明日香先輩の呪縛から解放された俺は、急いで明日香先輩から離れた。 そういえば明日香先輩、海斗先輩の言うことは聞くんですね。 「海斗先輩って明日香先輩の扱い上手いですよね〜」 「扱いって言わないでくれる? 人を爆弾みたいに」 「まぁ、爆弾であることに変わりはないけどね」 「何よ〜! 私そんなに爆発してないもん!」 いや、結構してますよ。 というか明日香先輩、出逢った当初に比べて、キャラが格段に変わってる気がするんですけど。 「そんなことないわ。私はいつでも私そのものよ!」 「いや、そんな大それたことを聞きたかったわけじゃないんですけど・・・・・・。で結局、短冊にはなんて書いたんですか?」 「ん〜? I wish everything in the world to become mine.」 「・・・・・・は?」 「だから〜。I wish everything in the world to become mine.って書いたの!」 「マジすか?」 「マジです♪」 あ〜明日香先輩なら遣りかねないわ〜。 この願い事だけは叶えちゃ駄目ですよ、天帝さん。 エリちゃん、なんかとっても驚いてたな〜。 今までずっと書き続けてきたけど、友達はみんな笑うんだもんな〜。 何でだろ? 本気なのに〜! いつか絶対実現させてみせるんだから! I wish everything in the world to become mine. (日本語訳)私は、世界のすべてが私のものになって欲しいと思います。 つまり、世界征服。 Fin... index Novel top 少し遅れましたが七夕です。 |