俺の名前は十文字三太四十五歳。
 二十歳の時にサンタになって早二十五年。プレゼントをあげた子供は数知れず。人呼んで、「黒髭の赤服おじさん」とは、俺のことさ。
 ・・・・・・まあ、まだ四十五だからな。髭は黒いし、おじさんさ。
 だがいずれ白髭爺さんになってやるさ! だから今は東急○ンズで買った、パーティー用の付け髭で勘弁してくれ。
 今日は十二月二十四日。今年も俺の出番がやってきたぜ聖なる夜!
 時刻は十一時半。そろそろ良い子は寝ているはずだ。
 さあ、いざ行かん! 不法侵入をしに!――ではなくプレゼントを届けに!
 自称「黒髭の赤服おじさん」はソリに乗って熱く燃えていたその頃、音楽荘では――
 「ねえねえエリちゃん。サンタさんに何頼んだの?」
 ――蒼葉高等学校長の娘が、転校生に純粋無垢な質問を投げかけていた。
 今日はクリスマスイブ。明日香の「みんなでクリスマス大会をしよう!」という呼びかけにより、吹奏楽部員全員がここ、音楽荘へと集った。
 何かと大会を開くのは、最早吹奏楽部の恒例行事となっていた。
「へ? え、え〜っと・・・・・・。ふ、フルート、かな?」
 絵里菜は香澄の「サンタは本当にいる」と信じて疑わないその天使のような笑顔に、驚きを隠せなかった。
 無論、「サンタなんていないよ」などと、子供の夢を壊すようなことをするほど、絵里菜も野暮ではない。
「エリちゃん、フルート吹けるの!? ヴァイオリンも弾けてフルートも吹けるなんて凄いな〜」
「いや吹けないけどね。やっぱり吹奏楽部なんだから、管楽器もやっといた方がいいかなってそれで。えっと、香澄ちゃんは何頼んだの?」
 話の流れ上、サンタがいること前提で話さなければいけない絵里菜は、やっぱりそう返すしかなかった。
「私? 私はね〜、えへへ。聞きたい?」
 ニヤニヤしながらもったいらしい態度をとる香澄。
 ここで「別にいいや、興味ないし」と空気を全く読まない発言をしたらはたしてどうなっていたのか、私は非常に気になる。
 が、絵里菜はそんな無神経な男ではない。
「うん、気になる。何頼んだの?」
「えへへ、えっとね〜。テディべア♪」
 ・・・・・・たいして驚くべきものでも、もったいぶって言うものでもなかった。
 当然絵里菜は戸惑った。
 どうする? この返答にどう反応すべきだ? と。
 そこにやって来たのが、無神経男――梶原辰哉である。
「甘いなカスミン! 君は実に甘い!」
「な、何でよ辰哉くん! い〜じゃない。くまさん可愛いもん!」
 香澄は頬を膨らませて怒った。
 一方絵里菜は、心の中で密かに「ナイスタイミング辰哉!」と思っていた。
「サンタクロースだぜ? もっと夢を持とうぜ!?」
 いやサンタクロースを信じている時点で、相当夢を持っている気がするのだが。絵里菜は、そう思った。
「じゃあ辰哉くんは何頼んだって言うの?」
「ふっふっふっ、俺はなあ・・・・・・聞きたいか?」
 やはりもったいらしい態度をとる辰哉。
 何だ? 今流行りなのか?
「いいから早く言ってみてよ!」
「わ〜ったわ〜った。いいか? 聞いて驚け? 俺が頼んだのはな〜・・・・・・P○3とNINTE○DO W○iだ!」
 ・・・・・・ものすごく現実的で、夢のない願いだった。
 しかも二つという欲張りさ。まさしく辰哉らしい選択であった。
「・・・・・・七四九八〇円」
 ものの数秒で香澄は二つのハードの合計を割り出した。
 普段からそれだけ頭を働かせていれば、もっと成績もあがるのだろうが。

 日付が変わった。
 ここからが俺の力の見せ所だぜ!
 鈴を鳴らして俺は走るぜ夜の街!
「こらダッシャー! そこを右折だ、真っ直ぐじゃない! 何度言ったら分かるんだ!」

 自称「黒髭の赤服おじさん」が猪突猛進するソリを引いている犬を叱っている頃、竜馬、麻衣香、沙希、沙耶、美香はUNOで盛り上がっていた。
「なあマイ・・・・・・。結城姉妹はどうしてこんなにカードゲームが弱いんだ?」
「分かんない・・・・・・。苦手、なんじゃないかな?」
 結城姉妹のあまりの弱さに、二年生二人は戸惑っていた。
「やった〜勝った〜! 沙耶の負け〜。これで私の十七勝十六敗ね」
「何をまだまだ〜!」
 五十歩百歩の争いである。因みにこの成績は、UNOの前にやっていたトランプから継続されている。
 このカードゲームを始めてから、結城姉妹以外に敗者はいない。
「ねえ先輩、結城姉妹がカードゲーム駄目みたいなんで、別のことしませんか?」
 同級生を思っての美香の一言だった。
「「じゃあ人生ゲームしましょう!」」
 これなら勝てると言わんばかりに双子は同時に叫んだ。
 これから二人とも借金にまみれるとも知らずに。

 時刻は一時を回った。
 予定よりも十五分遅れている。
 これは急がなければならない。
「こらダンサー! ステップを踏むなといつも言ってるだろう! ブリッツェン! それだけ着込んでてまだ寒いのか! 我慢しろ! お前犬だろ!」

「後輩たちは楽しそうね〜。やっぱり若さかな? あ、それロン」
「あ〜! また負けちゃった〜! ね〜明日香ちゃん、やっぱり私これルールよく分からないよ〜!」
 自称「黒髭の赤服おじさん」が相変わらず癖の直らない犬と寒がりの犬を叱っている頃、三年生は後輩たちの盛り上がりをBGMに麻雀をやっていた。
「なんか麻雀も飽きてきちゃったな〜。あ、そうだみてみて〜、ジャ〜ン!」
 そう言うと明日香はおもむろにカバンを開いた。
 そこには大量の札束が詰まっていた。
「なっ! 明日香、こんな金どこから・・・・・・」
「これは凄いな。一体いくらくらいあるんだ? こんな大金初めて見た」
「ふっふっふ、有馬よ有馬。4-1-5の三連単大当たり♪ 二百万円賭けといたから、総額で一億九千三百六十万也〜♪ やったわ私、億万長者よ♪ 流石ディープ。まさに飛ぶような走りだったわ!」
 高校生で大博打をしている明日香であった。
 大喜びする明日香を見ながら、海斗とユエは呆れたというか信じられないというか、とにかくなんとも言えない表情をしていた。
「明日香・・・・・・。お前、ディープの馬券買ってたのか・・・・・・」
「しかも三連単を当てるとはな。明日香、お前のその強運はどこから来るんだ?」
「運じゃないわ! ちゃんと私がデータに基づいて分析したんだから! 情報力の勝利よ!」
 自分の情報力を高らかに誇る部長を尻目に、校長・顧問の大人二人組は杯を酌み交わしたいた。
「明日香〜お酒な〜い〜?」
「亜沙子先生。もうそれくらいにしたら? 明日辛くなっちゃうよ?」
「へーひへーひ。こえくぁいは呑んだうてぃにはいやないかや(へーきへーき。これくらいは呑んだ内に入らないから)」
 亜沙子は既に呂律が回っていなかった。
 よって妹により宴から強制的に離脱させられ、布団で大いびきをかきながら眠りに就いた。
 それからも宴は深夜まで続いた。
 言うまでもないが、馬で稼いだその大金は厳重に保管されているので、自称「黒髭の赤服おじさん」が持ち去るという結末が訪れることは断じてない、とここに宣言する。

 草木も眠る丑三つ時。
 それでも自称「黒髭の(以下略)」は眠らない。
 散々犬を叱りながら走っていたら、なにやら古ぼけたデカイ建物を発見した。
「あの建物は、確か去年新しく建ったやつだな。去年は人が住んでいる気配がなかったが、今年はどうだろう? ちょっと覗いていくか」
 去年はこの時期、大会の遠征をしていて不在だったその建物に、自称(以下略)は向かった。
 広い。
 ただ広い建物。
 阪神淡路大震災級の地震が来たら、すぐに倒壊してしまうのではないかと思うくらいの大部屋に、男女十四人仲良く雑魚寝をしていた。
 少女と見紛うばかりの少年は、凛々しい少年の陰で怯えるように寝ていた。
 彼にはとあるトラウマがあるからだ。
 そんなこととは露知らず、自称以下略――改め、十文字三太はなんなくその建物への進入に成功した。
 ※         当小説は法律に基づいて執筆しています。決して○ッキングとかサ○ターン回しなどという技術は用いておりません。
(高校生か? じゃあもうサンタは信じてないか。・・・・・・ん?)
 三太は帰り際に、枕元に置いてある靴下に目に入った。
(何だ、今時の高校生もまだサンタを信じてるのか!)
 三太は驚くと同時に喜んだ。
 今時の若者は、サンタクロースはお父さんだと言う奴ばかりだったからだ。
(何て書いてあるのかな、どれどれ)
“テディベアが欲しいです♪”
(なんと可愛らしい!)
 三太は枕元にテディベアとカードを置いた。
 何故靴下に入れないかというと、無論、靴下が小さかったからだ。
(さて次は・・・・・・これか)
“○S3とNI○TENDO Wi○をくれ! 何だ、くれないのか? 最近のサンタとやらは腰抜けだな!”
(なんと生意気な! しかも何? 俺が腰抜けだと? 言ってくれる!だが俺は負けない! 聖ニコラウスの名に賭けて! サンタの経済力舐めんなよ!)
 三太は袋からP○3とWi○を取り出すと、枕元にドカッと置いた。
 これらは先日、イトー○ーカドーで抽選販売していたものを、息子のためにと深夜から並んで買ったものだったが、コケにされてむきになり、つい置いてしまった。
 この行為を、三太は後でとてつもなく後悔することになる。
(さてと、これでよしとしよう。ん?)
 この家だけで大散財となってしまった三太はメモがもう一枚あることに気が付いた。
 そこには美しい少女が静かな寝息をたてていた。
(なんと美しい! そんなお嬢さんは何が望みかな?)
“私には日本は狭すぎると思うの。だから世界をちょうだい♪”
(・・・・・・)
 少女は七夕の時の夢を、まだ諦めてはいなかった。
 あまつさえそれをサンタにまで頼んでいた。
(それは私には無理だ)
 そう呟くと、三太は枕元に地球儀をそっと置いて、ゴメンと書かれたカードを添えた。
 サンタにも渡せないものはあるのだ。

 翌朝。
「あっ! くまさんだ〜♪」
「うおっ! ほんとにP○3と○ii置いてある! やるな、サンタ!」
「何で私は地球儀なの〜。不満だわ」
「そんな・・・・・・。ほんとにいるなんて・・・・・・」
 少年少女は口々に感想を述べた。
 皆が白髭の赤服爺さんと想像している者に感謝と不満を込めながら。
 その贈り物にはいずれもカードが添えられており、その最後は決まってあのセリフが。
“Meri―Kurisumasu”と。
 ・・・・・・ん?
「あら? このメッセージカード、ローマ字ね。なんだか締まりが悪いわ〜」
「画竜点睛を欠くとはこのことですね」
「ヘッキシュッ! ズー! 何だ何だ? 町中の子供たちが俺の噂をしてるぜ!」
 三太は英語が苦手だった。
 ※         正しくはMerry Christmasです。

 述べ4,289文字
 執筆時間180分(3時間)
 いかがだったでしょうか?
 ハイスピードで書きましたので、誤字脱字もいっぱいあるでしょうし、雑な作りになってるかも分かりません。が、お楽しみいただければ幸いです。
 そんなこんななクリスマス。
 こんな駄文を見ている暇があるなら、自分なりに楽しいクリスマスを過ごしなさい!
 この小説を読むのが自分なりに楽しいクリスマスの過ごし方だという方がいれば嬉しいです。
 ではまた。
 Merry Christmas♪


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