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執事さんたちの憂鬱

 

 執事、それは仕えるもの。執事、それは傅くもの。秘書、それは仕えるもの。秘書、それは支えるもの。
 そう、これは一つの家系のため、命をかけて戦う青年たちの、超葛藤バトルサイドストーリーなのである。

「あ、あのっ! お、俺っ! 歩美会長の事が――」
 今日も歩美に告白する者は少なくない。
 容姿端麗、頭脳明晰、その上天真爛漫を兼ね備えているという、所謂一つの「萌え」要素を持つ完璧超人を好かない方がおかしいというものだ。
 しかし周囲の人々は、また可哀相な奴を見るような憐れみの視線を、たった今一世一代の大勝負に出た彼に送っている。
 それもその筈。今の今まで、歩美に告白を完遂した者はいない。
 挑戦者は全て言い終わる前に須く、
「き〜〜〜さ〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜! 今すぐデストローーーーーーイ!!」
 歩美専属の執事によって撲殺、妨害されるのだから。

「もうっ、宗ちゃんったら。何もそこまで――」
「いいえっ! このような輩は二度と口の利けないようにしなければ、いつまた歩美様に淫らな感情を抱くか分かりません故!」
 宗ちゃんと呼ばれた、その専属執事がまたがっているそれは、既に誰だか判らなくなっていた。
 南宗一郎――彼は、歩美がまだ幼稚園児だった頃から仕えている北条家の執事である。
 尚、妹である綾香の事も気をかけてはいるのだが、歩美への執着はそれの比ではない。
 たぶん、いや絶対、歩美にLOVEなんじゃね〜の?
「ほどほどにしておきなさい、南さん。それ以上は生徒会として不味いですわ」
 そこに現れたのは、波打つ金髪と透き通るような瞳の美しい西宮由貴。
 彼女もまた、北条家に仕えている。
「……まあいいだろう。おい貴様っ!」
「は、はいっ!」
 顔が当社比三倍はあろうかという不男になってしまった彼に宗一郎は言う。
「二度と歩美様に近づくなよ? もし近づこうものならコンクリ詰めにして――」
「は、はいぃぃ! し、失礼しました〜!」
 脱兎のごとく去っていく彼を見て、宗一郎はうんうんと頷きながら満面の笑みを浮かべていた。
こうして歩美の周りに、また一人男子が減った。

 そして放課後、誰もいなくなった生徒会室で、宗一郎と由貴は書類の整理をし終わり、帰り支度を始めていた。
「ねえ、宗……」
「宗と呼ぶな、由貴。ここは生徒会室、私たちの戦場だ」
 宗一郎と由貴――二人は幼馴染。幼少の頃、いや、生まれた時から共に北条家に仕える者として育てられた二人は、通過儀礼により正式に仕え始める小学課程修了時までは、多少の拘束はあったものの、ごく普通の小学生活を送っていた。
 中学校に入学したあの日から、二人は正式に北条家に仕える身となった。
「この仕事、楽しい?」
 由貴の口からは、本来従者が決して口にすることのない疑問が飛び出した。
 普段の由貴からは想像し得ない言葉に、宗一郎は大いに驚いた。
「何を言っているんだ、由貴。らしくもない。何かあったのか?」
「答えて」
 由貴は強い口調で宗一郎にもうもう一度問う。
 宗一郎は戸惑った。
 いつも凛として周囲を見渡すことのできる有能な由貴が、らしくもない弱音を吐いている。
 それでも由貴の問いに答えようと、必死で言葉を紡いでいく。
「あ、たりまえ、だ。歩美様のお傍にいられること、幸福以外の何物でもない」
「そう……。宗は歩美が好きなの?」
「なっ!」
 突然の問いに、宗一郎はこれまた驚いた。
 由貴は窓の外に見える夕焼け空を眺めており、表情からはその真意を読み取れない。
 由貴は、宗一郎の慌てる様が姿を見ずとも手に取るように分かった。
「なっ! なななな何を言うっ! それに様を付けんか、様をっ! この無礼者っ!」
「どうなの?」
 由貴は知りたかった。
 宗一郎の、仕事に対する思いを。
 親友である歩美に対する想いを。
 由貴は知りたかった。
「す、すす好きだの嫌いだの、そんな感情、とうに通り越しているわっ!」
 動揺の中、宗一郎が必死に紡いだ言葉がそれだった。
 数メートル離れている由貴にまで聞こえてしまうのではないかと思うくらい、心臓の鼓動は強く、大きく脈打っていた。
「……そう」
 由貴はそれだけ言うと、鞄を持ち、生徒会室の扉を開いた。
「お、おい、由貴?」
「さあっ! 帰りますわよ南さん! きっと歩美様が自宅でお待ちしておりますわ!」
 そう言うと由貴はスタスタと明るさを振りまきながら歩き出した。
「お、おい待て由貴っ! まだ俺は準備を――」
「私と言いなさい、私とっ! さあ、早くなさい」
 宗一郎は訳が分からないまま急いで、先に出た由貴の隣に並んで歩く。
「これからも、よろしくお願いいたしますわ、南さん」
 そう言った由貴の頬には光るものが一閃横切っていたことに、宗一郎は夕日による逆光のせいで、気が付くことはなかった。

 数日後、生徒会に新しいメンバーが加わった。
「はいっ、というわけで、絵里菜くん生徒会入りけって〜い!」
「龍宮絵里菜です。よ、よろしくお願いします・・・・・・」
 歩美と綾香に溺愛されている一人の少年。
 宗一郎にとってその存在は、敵以外の何者でもなかった。
「アイツはいつか俺が殺る・・・・・・」
 宗一郎の中で沸々と煮え滾る思い。
 彼は己が使命に燃えていた。
「全く、宗ってば・・・・・・」
 そんな中、遠目から全体を眺めていた由貴は、呆れた笑みを浮かべながら、北条家の事になると途端に周りが見えなくなる宗一郎の後ろ姿を、ただじっと見つめていた。

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