「此処(ここ)・・・・・・何処だ?」

此処が『日向(ひゅうが)』という所だという事以外は何も分からない。

こんな状況になったのにも訳がある。

あれは、あまりにも突然の事だった・・・・・・。

 

“すまない、この家売るからこれからここに住んでくれ”

そう書かれた紙とアパートまでの地図。

その手紙には、父さんが一億円の借金を作ってしまったと言う事。

高校の退学届と編入届を既に出してあると言う事。

これから住むアパートの大家とは知り合いだから心配は要らない。

etc...が書かれていた。

そう、高校二年生で俺は、

 

『生家を失い、両親友人と別れ、故郷を離れる事になった』

 

「こんな地図じゃわかんねぇよ」

俺は地図を片手に途方に暮れていた。

父さんが用意した地図は、幼稚園児が書いたのではないかという程、酷い絵だった。

多分この地図で分かるのは世界広しと言えど、ウチの両親だけだろう。

俺が辛うじて分かるのは『香澄荘(かすみそう)』というアパートの名前だけ。

どうしよう、今日中に着けるかな?

その時、時計の針は七時を回っていた。―とその時。

「あ、あの・・・・・・」

「えっ?」

背中の中程まである長い黒髪の女の子が声をかけてきた。

「何かお困りの様だったので・・・・・・」

制服を着ているという事はこの辺の学校の生徒なんだろう。

「あ、えっとですね。香澄荘というアパートを探してるんですけど、見つからなくて、何処か分かりますか?」

「え? そのアパートなら、そこですよ?」

えっ、そこですよって?

彼女が指した方向を見て暫し(しば)呆然とする俺。

「あっ」

在ったじゃん。物凄く近くに。

「あっありがとう、助かったよ」

「いえっ、それじゃあ私はこれで・・・・・・」

「あっうんそれじゃ」

そう言って俺は彼女と別れた。可愛かったなあの子。あっ、名前訊いとくんだった。

まっいいか、この辺の子みたいだったし、同じ高校だったらいいな、なんてね。

んな事を考えながら俺は『香澄荘』なるアパートへと足を進めるのだった。

index Novel top next